ほら、やっぱりだ。
あなたは私と肌を重ねた後、決まって携帯電話に手を伸ばす。
ただの待ち受け画面だと安堵の顔をして、メール受信の画面が出ていると眉をひそめるんだ。
理由は簡単だね。
あなたには愛して愛してやまない恋人がいる。
それは決して私じゃない。
「ねぇ。今日は泊まって行く?」
「あぁ……帰るよ」
「……そっか」
私はこの瞬間に、ある賭けを思い付いた。
「じゃあ、またな」
彼は服を手早く着ると私に背中を剥けて早口にそう言った。
いつもの私なら「またねぇ」と彼が見てなくても笑顔でそう言うだろう。
だけど今日は違う。
「ねぇ」
靴を履いているあなたの背中に私は小さく言葉をかけた。
「キスして…」
私がそう言うと彼は振り返り、目を見開いた。
「キス、して…」
そう言い、私はゆっくりと目を閉じた。
すると彼は小さな、小さな声で言った。
「………ごめん」
その言葉の後にパタンと扉の閉まる音。
私は目を閉じたまま、涙を流した。
そして部屋の中にある携帯電話を手に取り、泣きながら操作した。
「削除しますか?」
「はい」
私は泣きながら彼のアドレスを消した。
私の中の彼への恋が早く消えるようにと願いながら………。