俺は何の気なしに、窓の外に視線を移す。
今は授業中、だけどどうせ注意なんてされないだろう。
理由は簡単、俺が記憶喪失だから。
前の俺はクラスで孤立していたのか知らんが誰も俺に話しかけてこない。
もっとがんばって人気者になっとけよ、昔のおれ。
視界の中に、ふと気になるものが入ってきた。
何かの、かけら。
よく見えなかったので抽象的に表現することしか出来ないが、確かに何かのかけらだった。
甘い記憶か、つらい出来事の記憶か。
…………?
なにか見えた? つまり、昔の俺の記憶の断片に触れられた?
触れられた=記憶が戻る?
俺は、確かな希望を見つけたような気がした。
「彼女」と一緒の場所に居られる。
それだけの事実に、心が震えた。
そして同時に、恐さを感じた。
昔の俺の記憶が戻ったら、俺はどうなるんだ?
耐え切れなくなって、俺は勢いよく席から立ち上がり教室を出た。
先生がなんか行ってたような気がしたが、俺には塵ほども聞こえなかった。
俺は、哀しくなるほど脆い足場の上にたっているんだ。
無性に泣きたくなった。
2話へ続く