CIAの副長官が我々宇宙飛行士の前に現われてからの、偽アイザック、リチャードの動きは俊敏で、翌日の夜までには、彼ら二人で密談を進め、三日目の夜には私をアイザックの自宅の応接間に呼び出し、ある提案をした。
「事態は緊急を要する。緑惑星の植物が少しずつ世界に広がりつつあるが、例の事件以来、CIAの捜査は我々の足元まで迫っている。このままでは、我々二人の正体が暴かれるのは時間の問題だ。そうなると、緑の惑星まで帰還することは出来ず、本物のアイザックやリチャードと入れ替わることは永久に不可能になってしまう。しかし、次回のスペースシャトル打ち上げまで待つ余裕はない。こうなると、いざというときのために用意した乗り物で地球を脱出するしかない。明後日の深夜までに出発したい。」
私は、慌てて聞き返した。
「どんな乗り物で?家族はどうする?」
今度は、リチャードが答えた。
「我々は地球に着いた直後から秘かに円盤を作っている。海底洞窟の中で、誰にも知られていない。人数は11人。我々三人と家族だ。向こうに着いたら、もう地球には帰れないかも知れないから、本物のアイザック、リチャードに家族を会わせてやらないといけない。俺たちには、少なくともそれだけの責任がある。フロリダ半島の西海岸のある浜辺から、明日の夜中に出発する予定だ。」
話を聞きながら、私にとっても、緑の惑星に残った二人の仲間を救出するのが一番の課題だと思った。家族も一緒なら、不安もない。そう思い、きっぱりと答えた。
「分かった。そうしょう。とにかく、地球を脱して元の形に戻ろう。」
話は決まった。帰宅して妻に、明日の夜から仕事の一貫として、家族で短い旅行に出るとだけ話した。
…翌日の夜九時を過ぎて、私は妻と10才になる娘を車に乗せ、旅行カバンをトランクに入れると、西海岸に向かった。途中の待ち合わせ場所、シーガル・レストランの前には偽アイザック、リチャードの車が待っていた。中を覗くと、それぞれの車には、二人の子供と妻が乗っていた。みんな緊張した面持ちだ。何か不吉な予感をがするのか、誰もが、ほとんど無言に近い。