繋がれた手の温もり?

T  2007-08-28投稿
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「まだ絵、描いてたんだ」

帰り道、おもむろに聞いてみる。
彼女が昔から絵を描く事が好きで、小学生の頃から色んな賞を取ってきた事は、この小さな町では有名だった。

しかし、都会の忙しい日々に追われる今はそんな暇などないだろうと思っていた分、彼女が当たり前のように鞄から絵描き道具を出した時、正直驚いたからだ。


「絵は描いてると癒されるから…でも、反対にやめちゃった事も沢山あったな」

少し淋しそうに呟く彼女は、毎日をどう過ごしていたんだろうか。
星も見えないという眠らない街で、何を思っていたんだろうか。

見上げた夕闇に、薄く輝き始めた白い星。
いつも当たり前に眺めていたこんな景色さえ、不思議と今は新鮮に思えた。



「葵ちゃんはさ…」
「ひーちゃんさ…」

沈黙の後、急に同時に話し出して、思わず吹き出す。

「ごめん!ひーちゃん、何?」

「たいしたことじゃないからいいよ。それより、葵ちゃんは何?」

「私もたいしたことじゃないから…っていうかさ、いい加減その『葵ちゃん』、やめない?私もう27だよ?」

「それを言うなら、『ひーちゃん』こそないだろ?俺だってもう27なんだし…恥ずかしいからさ」

「えー!?…じゃあ、ひーちゃんが『葵』って呼んでくれるなら、私も『ひーちゃん』はやめるよ」


拗ねたように口を尖らせて言う彼女は、呼び捨てを望むにはあまりにも幼く見える。
それを言うとまた怒られるな…と心で笑いながら、僕らはその夏、銀色に瞬き始めた星空の下で、初めて互いの呼び名を変えようと約束した。



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