目の前に広がるおびただしい死体…。
その死体に群がる黒い鳥。
遠くに見える青い炎の柱。
廃墟。死体。炎。煙。赤い染み。飛び散ったなにか。
その光景をぼくは震えながら見ている。
足が痛い。血が出ている。身体中が痛い。
震えながら砕けちった破片を避けながらよろよろと歩く。
生きている人は周りを見る限り見当たらない。
血の匂いが鼻をつく。
猛烈な吐き気が込み上げる。
足が崩れその場にうずくまる。
「うっ…うっ…」
口元を押さえながら吐き気をおさえる。
目から冷たいものが頬をつたい落ちる。
「うっ…うっ…げほっ…」
泣きながら、吐き気をこらえる。
うずくまっていると、残骸を踏み潰す音が聞こえる。
グシャッ…バキッ…
その音がこちらに近づいてくる。
「うっ…うっ…だれ?」
顔をあげ音がする方を見る。
ギィ…ギィ…
機械音が聞こえる。
無機質な声が音のほうから聞こえる。
「生体反応を確認。」
目の前にあった残骸が上に移動する。
「……。」
綺麗なお人形さんが残骸を持ち上げこちらを見下ろしている。
身体が震える。
「対象を保護。」
手に持っていたコンクリートの破片を横に放り投げる。
ガシャン…
綺麗なお人形さんは青い色の瞳に赤い炎を反射している。
赤と青が瞳の中で混じり輝く。
頭が痛い。身体中が震える。吐き気が込み上げる。
「……。」
口を手のひらで更に強く抑える。
「残骸の破壊、対象保護を遂行。」
ザシュザシュ…
足音が近づいてくる。
「保護行動を妨害する対象物を破壊。」
ガシャン!!
ジュウ…ガキッ…!!
耳をおさえ、目を閉じる。
「残骸破壊完了。」
ザシュザシュ…
足音が目の前で止まる。
震える。
「保護。」
冷たい感触が頬に伝わる。
顔をあげる。
「大丈夫。安心。」
冷たい感触はお人形さんの手のひら。
お人形さんはぼくの目線に顔を合わせている。
「うっ…うっ…」
お人形さんの顔がにじむ。
「安心。安心。」
お人形さんはゆっくりとぼくを抱き上げる。
「うっ…げほっ。」
吐き気がひどくなる。
「保護完了。生体の外的損傷は軽度。内的損傷は重度。年齢は5〜8歳。」
ぼくを抱いて歩きながら、お人形さんはつぶやいている。