ヤス#142
帰路。モーテルがあった。ヤスが香織に入るように指示すると車香織はハンドルを大きく切りながら駐車場に滑りこんだ。
一番安い部屋に入れてもらう。部屋に入ると恭子と香織が抱きついてきた。「あーん!怖かったよー!」
「でも、やっちゃんって凄いのね。映画を見ているようだったわ。ねぇ、香織」
「うん。いったいどうなるかと思ったけど、あっという間だったわ。凄いな…オリンピック選手でも敵わないわよ」
「そうよ。やっちゃんって素敵!ヒーローよ」
「全然、怖くなかったの?凄く落ち着いていたわよね」
「怖かったさ。でも、愛する二人を守らなきゃあね…それより、シャワーでも使ってくれば?」
「うん。それする…行こう、香織」
「う、うん…」
二人はバスルームに消えた。ヤスはベッドの上で大の字になると天井に取り付けられた鏡を眺めた。これから始まるだろう、戦いの事を考えている間に寝てしまった。
夢の中を漂っていた。それは、故郷、崎戸島の思い出だった。母親の純子が洗濯物を干している。ヤスはその細い背中を眩しそうに眺めていた。
純子がヤスに気付いて振り返ると、優しく微笑んだ。
「やっちゃん…」