窓の先に霞む故郷

アラサ  2007-09-02投稿
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DとEは女達の待つ部屋に行く途中だった。近道で通った道が黄色の巨大なクッションで覆われている。よく、飛び降りや火災現場で用意される奴だ。
市警のDは窓から肘を出し警官に聞いた。
「どうした」「警部。それが、酔っ払いが先の雑居ビルから飛び降りしようとしていて」
見てみると同じマンションののんだくれが突き出した狭い梁に乗っていたからEは呆れた。
「103かよ」「誰です」「別に自殺なんか考えちゃいない。さっさと突き落として終わらせろ。飲み過ぎなんだあのおやじは」
のんだくれ103はベロンベロンになってDに気付くといつもの様ににこにこ手を振って来た。Dは呆れEに断り車外から上がって行った。
廃墟ビルはがらんどうで、警官達は自殺を思い止まる様説得している。本人はへらへら笑って今にも落ちそうだ。Dは窓から身を乗り出し103のいる所に来た。これはちょっと、酔った足で行ける所じゃ無い。
外に突き出した梁に跨がり彼の背を引くといつもの顔を振り向かせて来た。
「おいじーさん。あんたまた飲んでるのか?」「はっは〜さっきスキットルが落ちちまってな〜」「あんたまで落ちたら割れるのは瓶じゃ無いんだ」「子供が死んじまったのよ」「子供?自慢のコーヒー畑の」「そーよー。しんじまったってんだよー」
赤ら顔でもう一つ持ち歩く酒瓶を片腕でしっかり抱えながらうつらうつら眠りそうにそう言う。早く移動させなければ。
「それは不幸だった。あんたは死ぬ気か?」「おれかい?おれは死ぬのかい?」「さあ人の寿命は分からねえよ。行こうぜ。手を貸せ」「でもなあ子供は死んじまったんだけどなーおかしいなーヒック」「じゃあ葬儀開いたりいろいろのんびりしてられないだろ?」「そだなー」
Dは落ちない様に体を返した103を支えようとした時、103はバランスを崩し一瞬を置きそのまま二人は落ちて行った。
Eは声を上げ場は緊迫した。
跳ね返った瓶がガシャンと割れた。Dは背を押さえ顔を歪め目を開け黄色のマットがしぼんで行く。横の103を振り向いた。
彼は、憔悴しきっていた。そんな彼の顔を見たのは、初めてだった。
「・・・・」
叱ろうとした警官を抑え、明日じいさんの故郷に共に行く約束をし救急車に連れていかせた。
梁からはためくカラフルで褪せた旗は、灰色の空間を風で翻り、走っていく救急車を優しく撫でる様だった。



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