後頭部に広がる痛みも構わずに、急いで顔を上げた梅城ケンヤの視界には、ごくわずかの間に次々と風紀委員が倒され、20人はいる遺族達すら手を出せぬままに、一条フサエが例の二人組によって救われ、外部ドアの向こうへと、今正に姿を消そうとしている所が映った。
ようやく上身を起こした彼が改めて見回すと、辺りには二つの死体と、倒された風紀委員四人が横たわり、残された部下や遺族達が呆然自失のままに立ち尽す姿が散らばるのみだった。
やがて、風紀委員の一人が、ケンヤを気づかって助け起こしに来たが、
『くっ、こんな時に!』
悔しさにケンヤの顔からは血の気が引いていた。
―あの後姿・あのリボン!
―またしても俺の邪魔を!!
去り際に揺らめいた真紅のリボンの持ち主に、梅城ケンヤは後一歩の所でナツの仇の親玉を討つチャンスを奪われたのだ!
『梅城会長、約束が違う!何なんですあの生徒達は!?』
風紀委員の肩に寄りかかりながら立ち上がる彼に、遺族の一人がなじりに来た。
『一条フサエは俺が殺す!必ず殺す!!』
激情のままをケンヤは相手にぶつけ、
『だから君達もすぐに奴らを追え!俺は風紀委員に召集をかける!!』
第三中学校正門には、ついさっき倒されたばかりの門衛二人が、まだ気絶していた。
泡を吹いたままの彼らの間をすり抜けて、九重モエ達三人は、待たせていたタクシーに乗り込んだ。
一条フサエは血と涙と脳漿(のうしょう)とで、それはとんでもない顔になっていた。
しかも、さっきはタクシーを降りざま、押し問答の末、モエと霧島はいきなり風紀委員を襲撃して校門を破ったのだ。
全てを見ていた運転手には、口止料の五万円札が後部座席からねじ込まれていた。
後部座席中央に座り、今だ泣きじゃくったままの一条フサエに、モエはハンカチを差し出した。
『このまま逃げ切れるでしょうか?』
霧島は油断なく銃の手入れを始めた。
第三中学校は強力な風紀委員会及び会長直属の特別調査取締班を抱える言わば【軍事大国】だ。
学校内司法自治全権委任法の適用範囲は、校内に限られているが、統治権自体は、それぞれの学区にまで及ぶとされている。
つまり、第三中学校の正式学区を逃れない限り、フサエ達に安全は無いのだ。