「…和也のコトはもう…忘れたょ…?」
ようやく少し落ち着いて出した偽りの言葉はすぐにくつがえされた。
「嘘つくなよっ!!忘れた?!忘れられる訳ないだろう?!和也の歌聞いただろ?まだお前のことが好きなんだよ、あいつは!!」
「でも私にはどうすることもできないよ!!!
…できる訳…ないんだよ…。」
また私の目から涙がこぼれた。
雄くんの涙声も同時に頭の中に響いた。
「…和也は……死んだんだよ………。」
外はどしゃぶりの雨。
フッと頭に浮かんだ歌詞も雨の音でかき消された。
゙特別な約束、今も覚えていますか……?゙
あの時した約束。
覚えてるょ…でも もう叶うことはないね…
叶ってほしかった…。
ねぇ…和也…私はもっと前にあなたと出会いたかった…色んな思い出が増えただろうから…。
目をゆっくり閉じると、あなたと約束を交わした学校の体育館が見えた。
セミの音がうるさく響く暑い夏。
体育館のピアノの前に
私達がいた…。
高2の夏。
デビューが決まって、学校でも一躍有名人の和也はピアノの前に座った。
そっと鍵盤に指をおいて結婚式の入場の時によく聞くメロディをひきはじめた。
和也のピアノを聞いているのもその背中を見ているのも好きだった。
曲を弾き終えると和也は私の方に向きなおした。
「葉月。結婚しよっか。」
「えっ…。」
「もう少し落ち着いてからになるけど…嫌…か?」
「ううん!…和也のお嫁さんになりたい!」
そう言うと和也は椅子から離れて私に抱きついてきた。
ぎゅ〜っと…痛いくらい。
耳元でささやかれた愛の言葉。
「 愛してるよ…俺もし葉月が嫌だったら歌手やめて、今すぐ夫になってもいいから…。」
「ばか…私はね…。
和也の夢を壊すことなんてできないの…
ただ愛の言葉がほしいだけだよ…。」
「約束な…。」
そのまましばらく私達は抱きあってた。
体育館からもれる光はいつのまにかオレンジ色の光に変わっていた…。