ヤス#148
「そう言えば…泰子が言っていたわ…やっちゃんのお母様の名前私とした事が、ホホホッ…娘の恭子に似て、どこか抜けているのよねぇ」
違う。恭子が母親の弘子に似ているのだ。
「ヤス…ウチの養子になれ」
「だから、ダメだってば!親分さん」
「うあっはっはっ!」
竹内夫妻と女将は、ヤスの話を単なる偶然として捉えたようだが、ヤスは違っていた。自分の前で微笑む純子が死んだ純子の生まれ変わり…そうとしか思えない。
島を出てから、こんなにも早く出会えるとは思わなかった。ヤスはこみ上げる嬉しさを耐え切れなかった。
「親分。お願いがあります」
「おう!何でも言え」
「怒りませんか?」
「俺が怒るような事か?」
「はい」
「…わかった。一晩、この嫁を貸そう。いいな、純子。ヤスに一晩付き合え…そう言う事だろう。ヤス」
「はい」
「理由は聞かない」
「ありがとうございます」
竹内親分。その妻、純子。そして、女将の弘子。それぞれがヤスの心を推し量った。純子は笑顔でヤスに話しかけた。
「今夜はやっちゃんのお母様になるわ」
女将は少ご不満のようだった。ヤスの生い立ちは泰子から聞いている。そのつらい日々を考えれば嬉しい展開だ。