人類の星間国家が三つに分かれての第二次銀河大戦(銀河暦二七七〜三二三)において、幾つものエピソードが生まれて、現在に語り継がれている。
この物語も、そんな星の数ほどある説話の、一つに過ぎないのである…
…銀河暦三○六年五月一日。その日は前日からの雨が、未だ降り続いていた。雨足は強くは無いのだが、シトシトとやみそうでやまないのである。
ドーリア惑星連邦の首都グラフトンにおいて、この季節の雨は珍しい。連邦軍少佐ケイト・ブロードは、いつもより早く目が覚めて、その雨の様子を窓越しにぼんやりと見ていた。
この年二十八才になる彼女は、連邦空軍の数少ない撃墜王の一人である。
明るいブラウンの髪に青み掛かった瞳。大概の異性に魅力的だと思わせる容貌だ。
しかし、その表情には憂いが表われていた。
そのまま小一時間たった頃だろうか。ケイトの部屋のTV電話〈ヴィジフォン〉が着信を告げた。ゆっくりと受話器をとると、友人のアンナ・ライス大尉からだった。
「おはよう、ケイト。起きてたのね」
心なしか、彼女の表情が堅い。ケイトはその様子に気付いたのだが、分からないフリをした…