「なんとなく、目がさめたゃって。朝からどうしたの?」
「う、うん。別に大した用事がある訳じゃないんだけどさ…」
(こんな朝からかけてきてそれはないんじゃない?)ケイトは心の中で苦笑いをした。ライスはそんなことには気付いていなかった。「ほら、今日は結婚式があるじゃない?」
あぁ、その話か…。ケイトは彼女がいつもと違う理由に気付いた。
「もう出席の返事は出したし、行く予定よ。安心して」
ライスはギクリとした表情をしたが、すぐにそれは隠した。
「そうよね。同じ空軍幹部候補生だったんだもんね。行かない訳ないか」
ライスはホッとしたように笑顔を浮べた。 ケイトは彼女に一緒に行こうか、と誘ったが、
「私もそうしたいんだけど、今日提出する書類が溜まっててギリギリまで仕事があるから…」
という返事だった。「じゃあまた後で」と言って電話が切れた後、ケイトは暫く消えた黒い画面を見ていた。 ややあって、ふぅっと息をついて受話器を置く。
(彼女が気にするのも無理ないか。確かに私自身、吹っ切れてないもんなぁ)
少し濃いめのコーヒーを入れながら、ケイトは思った。もう、あの時から五年の月日が流れた。それなのに未だに彼女の心に影を落とし続けているのだ。(そんなことじゃ、ダメだもんね)
だからこそ、結婚式の出席を決めたのである。先のことに目を向けなくてはならないことを、彼女はよく分かっていた。
ケイトはベッドに腰掛けて、コーヒーをすすりながら今まで目を背けていた記憶を辿っていた。
まるで、失った刻を取り戻そうとするように…。