私と妹は何も考えず、3人が向かった方に行ってみた。そこには、真っ白な体を真っ赤な血で染めた、エルフがいた。
『エルフ!!エルフ!!』
兄と母は何度も呼び掛ける。でも、エルフにはすでに自分で動ける程の力は残っていなかった。
『エルフ!!エルフ〜!!』
私は何をしたらいいのか分からず、泣きじゃくりながら名前を呼び続けた。兄は呼吸をさせるために、舌を引っ張っていた。エルフはやっと呼吸ができるぐらいで、ヒューヒューいっていた。後ろの方では父が動物病院に電話をかけていた。
『おい!!病院行くぞ!!』
母がエルフを抱きかかえ、皆で車に乗った。その間、私は何をしていたんだろう。ただ、シートについた血を眺めていたのは覚えている。
気が付けばそこは病院。獣医さんがベッドに寝かせたエルフにいろんな機械をつけていた。
『しっかり自分で呼吸できるか調べてますんでね。』
プラスチック製のマスクをつけて、その先にはハッポースチロールを細かくしたようなものがたくさん入っていて、それはかすかに動いていた。
私はその姿を見てられなくて、誰もいない場所で声を抑えて泣いた。涙はいつまでたっても止まらなくって、とめどなく溢れてきちゃって…こっそり緊急治療室を覗くと、今にもどこかに行ってしまいそうなエルフがいる。
兄は学校で、父は仕事で帰ってしまった。
どれくらい経ったんだろう。エルフはもうピクリとも動かず、ハッポースチロールも動いていなかった…
『お母さん、もうこれ以上やるのはかわいそうです。肋骨も何本も折れてますし、もうほとんど呼吸もしていません。』
『はい。ありがとうございました。』
私はもう枯れてしまうほど泣いて、涙は出なかった。エルフの亡きがらは、真っ白だった。