既に六時になりかけて、街は次第に暗くなっていた。
北に急ぐタクシーの中で、霧島ユウタは、携帯で受け取った報告を九重モエに伝えた。
『安東副会長より連絡です。第三中学校は引っ掛かりました。おそよ30名が学区境の防衛に来ているそうです』
『半数は―引き付けたのね?』
だが、残る半数は今だこちらを追撃している。
第三中学校はやはり莫大な兵力を抱えているのだ。
まだ少し時間がある。
九重モエは一条フサエに尋ねた。
『何で貴方は梅城会長に追われているの?』
考えてみたら、最初に聞くべき事だったのだ。
最初に聞くべき事だったのだが、めまぐるしい事態の移り変わりの内に、ついつい聞かず仕舞いだったのだ。
だが―\r
『えー?あいつさー自殺した多聞堀ナツの従兄弟なんだってさー』
『多聞堀ナツ―ナツ事件ね』
あの頃モエはまだ小学生だったが、頻繁にマスコミに取り上げられていたから、良く覚えていた。
『その復讐のために私を殺すだってーキャハハッ、今思い出してもマジ受けるんだけどーあの梅城って何なの?頭おかしいの?』
『待って、貴方はナツさんと何の関係があるの―?先輩?友達?』
すると、フサエはげらげら笑い出した!
『邪魔だからイジメただけだけど?だってさあ、あの女ってこっちから仲良くしてやってるのに、いっつも私より少しだけ優秀な所見せるから、生意気じゃない?』
『ええっ!?』
モエは驚いて、思わず大声で聞き返した。
自分の耳がおかしくなったのだろうか?
―しかし
『だからあ、あいつが私と張り合うのが悪いっていってんのお!大人しくいつも私の言うこと聞いてれば良いのにさあ!私よりも家柄の低い、庶民の分際で、せっかく仲良くしてやってんのに、成績も人気も容姿も、いつも私より少しだけ上でいやがってさあ、ね?生意気でしょ?だからイジメたの―イジメて自殺さしたんだ』
『貴方本気でそう考えてんの?そんな理由でナツさんをイジメたの!?』
気付けばモエの顔は、真紅のリボンと同色になっていた。
冗談だったら不謹慎だし、本当だったら更に許せない。
だが―\r
『なーにムキになってんのよあんただってイジメの一つや二つして、その座に就いたんじゃないの?会長さん?』
相手は更にケタケタ笑うだけだった。