ヤス#154
ヤスの魂は崎戸島のあばら屋にあった。母を抱いている。幾度も夢の中で抱いた。だが、今は現実に抱いていた。同じ匂い。そして、同じ体温。優しい母。甘い体。
ヤスは腕の中で溶けていく母の香りを全身で感じた。
「母さん!」
「ああっ!ヤス…ヤス…あああっ!」
暗雲が立ち込めていた。雨が地面を叩き、落雷が地響きのように伝わってくる。
「やっちゃん…ヤス…」
悦楽の果ての休憩から目覚めたヤスに、純子が微笑んだ。
「気を失っていた?」
「クスッ…ええ。気持ち良く眠っていたわ」
「あ、ゴメン」
「やっちゃん…どうだった?」
「母さん」
「やっぱり…そうなの?」
「うん…間違いない。母さんだ…会いたかったよ」
「ああっ!やっちゃん…あなたは私の子なのね…そして、龍神に選ばれた子…分かったわ…一緒に崎戸島に行きましょう」
「行ってくれる?」
「ええ。この目で確かめたい…サトリに会わせて」
「親分には?…信じてくれるかな…」
「大丈夫。あの人の事は任せて…やっちゃん、それより…もう一度…お願い」
二人はゆっくりと抱き合うと、再び官能の世界に浸っていった。