既に八時に迫ろうとし、T駅東階段口前のロータリーは、灯された照明で、1面闇は払われていた。
九重モエや梅城ケンヤ達の周りも、車両のライトや駅前デパートやオフィスビル・商店街からの様々な色の明かりが、投げ掛けられては入り混じり、それは意図せずしてちょっとしたイルミネーションを作っていた。
その幻想的な光景に包まれながら、霧島ユウタは第三中学校の追手達の前に立ちはだかっていた。
『ストリートファイトと行こうや。お前ら随分と派手な滑降しているな。それに大層な物持ってるみたいだが、それはただの飾りか?―おい、誰か俺とやりあえる奴はいるのか?それとも会長に飼い慣らされてそんな勇気はとうになくしましたってか?』
すると、第三中学校・特別調査取締班の白学ランの列の中から、一際屈強そうな生徒が、日本刀を足元に投げ棄て、前に出てきた。
『一秒で黙らしてやる―我が校をコケにした報いは重いぞ』
霧島はそれに、戦闘的な笑顔で応じた。
『ほう、少しは骨のあるやつがいたのか?だが、固いねえ―頭の中は梅城思想で一杯かい?』
そうからかってから、軽く九重モエへと振り向き―\r
モエは即座に彼の試みを了解した。
霧島は大きく足を踏み出し、両拳を合わせてぽきぽきと鳴らした。
相手はにんまりと笑い、お互い一騎討ちの態勢に入った―\r
その瞬間だ。
いきなり紺の学ランを脱いだ霧島は、相手の頭にそれを被せ、そのまま梅城ケンヤに向けて走り出し―\r
感謝します、霧島―\r
心で礼を言いながら、九重モエは後ろを塞いでいた一人の腕を捕まえて投げ飛ばすと、一条フサエと共に階段口へと駆け始めた!
ちらりと背中を見ると、主君を襲われかけた白学ラン組達が、鬼の形相で一斉に霧島に襲いかかっている所だった。
相手は7人―\r
幾ら腕が立っても霧島一人では歯が立つまい―\r
そう心配しながらも、彼女は足を早めてフサエを急かす。
『クッ、汚い真似を!俺は良いから奴らを追え!!』
霧島が歩道に倒されるまで僅か15秒―\r
だが、貴重な15秒だ―\r
梅城ケンヤは襲われそうになった事よりも、失われたその時間に怒り狂っていた。
『急げ!!構内に逃げられたら―』
そこはもう公共スペース
一般の警察権が及ぶ中立地帯なのだ。