葵ちゃんはため息をつきながら、私に向かって面倒くさげに言い放つ。
「…まぁ、いい。俺、まだこれから仕事残ってるけど、お前は仮眠とれるうちにとっとけ。現場でブッ倒れた日には、俺ぁ、他人のフリをする」
そ、それはないんじゃないの?
私は心の中でツッコミを入れる。
でも本当は心配して言ってくれてるんだ。
この人の優しさは不器用すぎて人に上手く伝わらないから。
「ふふ、ありがとうございます」
私はそれだけ言うと仮眠室に向かった。
眠る前に葵ちゃんのことが頭に浮かんだ。
黙っていれば背も高いし、かっこいい。
初めて会った時なんて不覚にも『素敵!』なんて思っちゃったりして。
でも一緒に仕事しているうちに本性が見えてきた。
えぇ、鬼の様な人でしたよ。意地悪で、見た目は大人なのに子どもっぽいし、すぐ怒るし、すぐすねるし、子どもとか動物好きなのにあの見た目のせいで怖がられるし。
あ、でも、笑うとかわいいんだよな。
…そんな事を考えていたら、まぶたが重くなっていった。
私がウトウトし始めていると…
「おい!さーはーらー!腹減ったんだよ。肉まん買ってこいや」
え?この人何?軽いイジメ?自分が仮眠とれっていったよね?私、10分しか寝てないよ?
私はこの鬼の一声で起こされ、しぶしぶ肉まんを買いに行ったのであった…。
続く