目的地に向かう車の中では、俺は珍しく普通に話せてた。
一番仲のいいサトシとの昔話、俺の親父の話、退屈な学校の話、公園でいつも見るリーマンの話、好きな音楽、映画、料理、マンガ。頭に浮かんだすべてを話した。まだまだ話はあったが、目的地に着いてしまった。
「あははは。タカシ君って面白いね」カナエさんの、笑い顔、笑い声、全てが好きだった。
「喉が痛い。話過ぎた」
「頑張ったね♪お疲れ様♪」
カナエさんはニコニコしながら、歩き始めた。
「何の映画見る?」
俺は、予定表を見ながら聞いた。
「私、見たい映画あったの。これ!」
カナエさんが、指指したのは、今人気の恋愛映画だった。
「いいね!これ俺も見たかった。」
二人でチケットを買い、中に入った。ここでも、一枚は、大人。もう一枚は、学生。俺にも、少しはプライドがあるみたいだった。
映画が上映され、中盤くらいで、周りからは啜り泣く声が聞こえてきた。カナエさんもその一人だ。
俺は、カナエさんにハンカチを渡そうとした。しかし、ハンカチなど持っていない。手を握る勇気さえなかった。
映画が終盤にきた。館内はみんなが泣いている様だった。
カナエさんの顔が、スクリーンの明かりで少し見えた。目からは大粒の涙が零れていた。俺はその泣き顔を見て愛しくて仕方なかった。
上映が終わり、エンディングの頃になると、映画に集中していなかった筈の俺が、一番大泣きしていた。
「感動したね」
「う・うん。うん。」
「あははは。タカシ君泣きすぎ。」カナエさんは大笑いしながら、ハンカチを貸してくれた。