(act−1から続いています。)
act.0.5
「振られて当然‥って思ってるの?」
ぽつり、とその女は呟いた。
響いたのは驚くほど平淡な声。
そのあまりの平淡さに逆に驚いたくらいだ。
思わず振り仰いだその先に見えたのは、白い顔。真っ黒い髪。
白いと言ってもそれは素の肌の色らしく、その証拠に一つ、二つと薄いそばかすが浮いているのが見える。
全体的に小作りな顔立ち。
その中でやけに明るい鳶色の瞳だけがパチリと大きく際立って見えた。
こうやって、改めて見たのは初めてだ。
先程、アイツの元カノの友達として現れたそのコになんて、正直先刻までは見る余裕なんて無かったし、第一当然「好感」なんて持てるわけない。
なのに、何故かその声はひどく耳触り良く耳に響いた。
呆然と見詰める俺に、それでも彼女は無表情なまま再び口を開く。
「振られて当然、って思ってる?
自分が男だから‥‥だから振られたって、思ってるの?」
相変わらずその声からは感情は読めない。
「それは‥違うよ。あのコは彼が、好きだったの。
女とか男とかじゃ無くて、好きだったから諦めなかったの。」
「‥‥‥っ、」
「それだけ。でしょ。」
サラリ、
と揺れた肩までの髪がたてた音さえ聞こえそうな気がして
「俺のこと、気味悪くないの?」
気付いたらそんなことを口走ってた。
それに彼女の瞳がキョトン、としたように揺れた。
それはたぶん初めて見た、表情の動き。
「なんで?
同じ‥‥でしょ?」
「え、」
「あなたも同じ気持ちで好きだったんでしょ。
ただあのコの方が選ばれたって、それだけ。」
−−−−それの何が気味悪いっていうの?
何も、言えなくて、
ただギリギリと胸だけが痛むのに、胸を抱えて屈み込んで、
ふとその視界に映ったのは、ちらりと見える足首と、青い青いハイヒール。
黒いシャツにデニムのパンツという彼女の格好にそれは合うのか合わないのか‥‥よく解らなかったけど、
それでもその青いパンプスは、彼女のイメージに良く似合ってた。
続く..(?)