家の前の広場ではところ狭しと魔法陣が描かれている。
その魔法陣の中心には巨大なおそらくは一軒家に匹敵するほどの壷が置かれていた。
『なぁ…母さん。なにもここまでやらなくても』
赤毛を朝日で煌めかせたシバがいそいそと準備を進めている、義母に言う。
『なーに言ってるの!?この日のためにお母さんどれだけ頑張ったか!』
目をつりあげ詰め寄って来る。
『いやっ…だから、アレはないだろ?』
そう言ってシバは壷の口を指差す。
そこには三人の見知った顔がこちらを壷の中から覗いていた。
『あ〜。まっアレはしょうがない、だって【魔王】クラスのやつを召喚するには必要不可欠なんだもん。』
『だったら俺の【寿命を使えばいいだろ!?】』
しかし、義母はシバを流すように語り始める。
『そう…あれは10年前の出来事だった。』
両手を祈るように合わせ、あさっての方角を見上げながらしゃべっている。
『誰にしゃべってんだか…。』
『魔王の中の魔王、【メギド】の呪いによってヴァルファイムの町は変わってしまった。ある者は悪魔へと姿を変えられ、ある者は【良心】を失い人ではなくなった。この呪いを解くには…魔王を倒すしかない!だからシバちゃんには頑張ってもらわないと♪そんなあなたの寿命を使えるわけないでしょ?』
『…あ、ぁ…。俺は魔王メギドを倒す。そしてこの町のみんなを呪いから解放してみせる。』
そう、魔王の呪いは本物なのだ。シバは義母を見遣る、外見そのものは人間なのだが…よく見ると額にもう一つ目がある。
辺りを見渡すと人らしい人は全く存在していない。
近場でじゃれあっている子供たちはそれぞれ、悪魔のような尻尾、翼が生えている。
全身が岩に覆われた巨人に変わり果てた近所のおじさん。
ネコみたいな風貌になった少女。
この町人たちの異変はとまることを知らず、中には【良心】を無くし魔物へと変わった者もいた。
『…そんなことになる前に…』
『シバ?準備はいいわね?』
そして義母は召喚呪文を唱え始める…