「なんだこの世界は」罪のない幼児を殺した事件をTVのニュースを見ながら総二は言った。平日だというのに朝11時のニュースを見ていた。もう最近では、この時間に大学で何の講義をやっているかも忘れていた。曜日もバイトでやっているコンビニに朝届く雑誌の種類を見てかろうじてわかっている程度だ。「そろそろ時間か…」そう一言つぶやくと、カップラーメンとペットボトルの海をかきわけるように、パソコンの前に座り電源を入れた。パソコンが立ち上がるまでの少しの時間、目を閉じた。これが欠かさずやっている彼の儀式なのだ。目を開けてアカウントとパスワードを入れた。
ヤス:「こん〜」
月の使者:「ちゃ^^」
ネーブル:「おはよう沖田(>_<)」
沖田:「こん☆」
総二はこの世界では『沖田』と呼ばれている。本名は畑中総二、新選組の沖田総司からとったハンドルネームだ。『シャドー』一昨年の暮れに発売され一部のパソコンユーザーから爆発的人気を呼び、今では全世界のプレイヤーの数は500万人はくだらないと言われている、ネットワーク通信型のRPGゲームだ。総二は昨年の夏にバイトの先輩から紹介されて以来約一年半、ずっとこのゲームにはまっているのだ。