ヤス#159
「母さんは持ってるの?免許」
「うん!持ってた」
「持ってた?」
「うん。取り消しになっただけよ。心配しないで」
「しないでって…」
「だって、この惨状よ。そんな事、言ってられないでしょう?さあ…急いで戻りましょう!」
「分かった。やっぱり、俺が運転する」
ヤスは無理やり純子からキーを取り上げるとハンドルを握った。エンジンを掛けるとギアを入れた。
「あっ!ヤス、それはバック!」
車が急発進した。後ろの車にドンッと当たって停止した。ヤスは笑いながらギアを入れ直すとタイヤをきしませてパーキングを下りていく。
車はゲートの柵を粉々にしてビルを飛び出していった。
車を走らせながら純子の手を握った。
残状が続いている。パトカーが赤色灯を点滅させながら、猛スピードで走り去っていく。
テレビ局なのか。はたまた自衛隊なのか…ヘリコプターがバラバラと音を響かせながら上空を旋回していた。
街は死んだように静まりかえっているが、人の気配は感じられた。数頭の犬が横切って行った。犬が生き延びたのだ。人間だって生き延びているだろう。