人類の大半は、主に各惑星公転軌道に次々と建造された浮遊型コロニー・あるいは推進装置を取り付けた自航型コロニー・そして、アステロイドベルトの小惑星に手を加えた人工・半人工宇宙都市を植民先にしていた。
外宇宙へと人類が漕ぎ出したのは、西暦26世紀も末になる頃だった。
飛躍的進歩を遂げた自航型・人工植民体、つまり巨大な宇宙船が、引き続きその主役だった。
代表的なのが、西暦二五八八年中に第一〜五番艦まで進宙した『ユニバース』型で、全長一・五kM、一G下基準排水量三0万七000トン、核融合機関で推進し、その無尽蔵のエネルギー源を利用した環境・再生産システムで、二0000人が半永久的に居住する事が出来た。
正に『箱船』『宙飛ぶ国家』だ。
ユニバース型は改良を重ねながら合計四00隻も建造され、併せて六三八万人を太陽系の外に送り出した。
だが、外宇宙への船出=外惑星への移住になる訳ではない。
超粒子複合体摩擦反応炉(フリクションリアクター)は理論的には完成していたが、実用化までには莫大な資本と犠牲を要するのは明らかだった。
人類は光速航行の代わりに世代交代を重ねながら目的地を目指す選択をした。
気長だが、現実的な選択だった。
人類の活動領域がどれだけ増えても、最も近いアルファ=ケンタウリ恒星系までにしてからが四・三光年もあるのだ。
もう、笑うしかない。
フリクションリアクターを使えば、確かに四〜五年の旅行で済みはする。
だが、速度にしてその百分の一が限界な核融合推進の方が、百倍では利かない信頼性がある上、応用面では完全に圧倒していた。
しかも、惑星可住化自体が、とんでもない長期間を要する代物で、仮に成功しても、形成された分厚い大気と惑星自体の重力が邪魔して、宇宙空間とのヒト・モノの往来は極めて困難になる。
割に合わない事この上ない―これが、この時代の人類が抱く認識だった。
そこへ更に、惑星移住方式に大打撃を与える事件が発生した。
西暦二五九九年・太陽活動が一時異常に活発化し、その煽りを受けた水星の大気が崩壊し、入植していた七00万人が全滅するという大惨事が発生したのだ。
外からオゾン・二酸化炭素・酸素、窒素の混合体と、分厚い、しかも三層構造で万全の対策を打っていた筈の大気造成も、所詮は人が計算した物だ。