車が屋敷を出ようとした時、一台のバンが事件現場へと走り去っていくのが見て取れた。
光にはそれがなんだか検討がついたようだ。
『あれが例の処理班ってやつね……』
「……くそ!」
突然の事でびっくりしたが、どうやら運転席からの声らしい。光にはその声に聞き覚えがあった。
「望様?」
「……よくわかったな」
辺りが一瞬固まったかのようだった。
「何で……」
「何でかって? それはこっちが聞きたいさ!」
いつもの知っている望ではない。光はずっと訳がわからないままだ。
「……すまない。ついかっとなってしまった」
「……どうゆうことなの?」
光は自分だけ取り残されている様な不安にかられた。
すると、今までせきとめていた事が雪崩のように口から出てくる。
「……何で私がこんな目にあうの……何なのよあいつら……何が目的なの? 何処へ連れていく気!? 早く降ろして!!」
「J、ターゲットの動きを止めろ」
すると隣にいた日本人が光の口と腕を掴んで動きを封じる。
光は今にも泣き出しそうだ。
生まれてからこのように理解が出来ない事はなかった。
楽しみにしていた望とのデート、しかし待っていたのは自分自身に降り注ぐ予想外のサプライズ。
とうとう光の目にたまった大粒の涙が頬を伝って流れ落ちる、それも口を塞いでいたJの手によってすぐに形を失ってしまった。
「君に危害を加えるつもりはない。だから少し落ち着いてくれ」
憧れだった望からの優しい声が車内に響く。
20分程経った頃、ようやく落ち着いた光はぼーっとしたまま流れる雲の形を懸命に見つめていた。
そうでもしないといつ自分が暴れ出すのか、わからないのだ。
「すまない。君の護衛を任されているはずが、まさかこんな形での接触になるとは思ってもみなかった」
光は運転席にゆっくりと目を向けた。
「君を騙そうとしたわけではない。きちんと説明をするつもりだった」
望が話をしながら運転しているなかでも、Jは顔色一つ変えないで隣に座っている。
「とはいっても嘘をついたことには変わりない。今まで隠していてすまないが我々はCIAだ」