俺には兄貴がいる。一流大学に通っている大学生だ。俺は高校生だが、学校にも行かずふらふらしている。俺は兄貴が大嫌いだ。小さい頃から賢くとちやほやされていた兄貴が邪魔だった。
僕の日課は日記を書くことだ。二年前から毎日書いてる。日記といってもほとんどは兄貴に対する愚痴ばかりだ。家族で長崎に旅行に行った時でさえ僕のノートには悪口がいっぱいだった。
兄貴はたまに優しい時もあった。僕が野球をやりたいと言った時、反対する親を一緒に説得してくれた。1度だけだがキャッチボールの相手もしてくれた。夜になればまた日記に悪口を書くことになるのだが、その瞬間だけは兄貴の事が好きだった。
僕たち兄弟に決定的な溝ができたのは僕が15歳の時だ。僕が大切にしていたフィギュアを兄貴が壊した。僕はそれが許せなくて兄貴と話さなくなった。こういった兄弟喧嘩は普通なら1日もすればおさまるものだがそうもいかなかった。そのままほとんど話すことなく今に至るのである。
兄貴が死んだ。
学校から帰って来てその知らせを聞いた。
大学から帰って来る途中にバイクに引かれて即死だったらしい。
笑いが止まらなかった。兄貴と一緒に使っているこの部屋も今日からは一人で使えるし、音楽だって大音量で聴くことができる。今日からは好きにできる。僕はたまらなくうれしかった。
それから僕は今日の日記を書く。ビショビショになった最後のページを閉じ、ハンカチと一緒にごみ箱に捨てた。