「CIA……。え?」
「名前だけは知っているようだな」
光の頭の混乱は更にエスカレートした。
「望様がCIA……て何?」
辺りが一度静まり帰ったのを、車内の三人はひしひしと感じていた。
その空気を裂くように、望が口を開く。
「……一度しか言わねぇからな。CIA、Central Intelligence Agencyは通称アメリカ中央情報局だ」
分かったのか分からないのか、微妙な顔をしている光をミラー越しに見つめている望は話を続けた。
「アメリカ合衆国大統領直属機関だ。大統領の支援・護衛に関わる情報収集・対外工作を行っている」
「たいがいこうさく?」
『ホントに気難しい言葉を使うのね……』
「その”たいがいこうさく”ってのは一体どんな事をするの?」
光の態度は到底、お嬢様の品格を表しているものとは思えなかった。
「主な仕事として、情報操作、民衆扇動、プロパガンダ、これは組織的な宣伝活動を意味する。そしてアメリカの脅威となりうる敵組織の指導者の暗殺だ」
光は”暗殺”という言葉が頭に響いて仕方がなかった。
好きだった望の口から軽々と出て来た言葉は、光の心に簡単に突き刺さった。
「……でもそのCIAが何で私の護衛なんかしてんのよ」
「お前もそういう強気なとこがあんだな。少し安心した」
「そんなことはどうでもいい! 早くおしえなさいよ!」
「わぁったから、静かにしてくれ」
今にも暴れ出しそうな光を見て、慌てて落ち着ける望。
「話せばとても長くなる、しかもとても衝撃的な事だが全て事実だ。それでもいいのか?」
「早くしなさい!」
「はいはい、お嬢様」
そんな状況のなかでもやはりJは顔色を変ない。
赤のスポーツカーは道路交通法をしっかり守りながら淡々と突き進む。
望が口を開いた。
「君のお父さんの仕事は何だったかな?」
「そんなこと言わなくても、既に調査済みなんでしょ? CIAさん?」
望の真面目な顔を見た瞬間に事態の重みを感じた。
「……ただの貿易業ですが」
「表顔はな。しかし残念なことに、君の会社は別のビジネスにも手を出したようだ」