「父が何か犯罪をしていたっていうの?」
「いいや、そうは言っていない」
不安は増すばかりだ。
「16年前、君のお父さんは貿易事業を向上させようとIC関連の仕事を同時に始めた」
「そんなことは知ってる。インターネットのお陰でうちは成り立っているようなもんだからね」
「君の会社の利益の約八割が海外からの注文から成るもので、今の会社の成長に欠かせないものだろうな」
焦らす望の態度が気に食わない光は自分の思っている事を口に出す。
「で? そのインターネットが何か問題なの?」
「インターネットの制度自身に問題はない。実を言うと、インターネットは”そいつ”の巨大で強力な、いわば手足でしかない」
光は誰かに頭をぶん殴られて、失神してしまった方がましだと思った。それは、深く考えなくて済むからにほかならない。
「その”そいつ”が何なのか教えてくださる?」
光のいつもの口調だが、この時ばかりはおもいっきり皮肉をこめた。
「BDSだ」
「びぃでぃいえすぅ?」
英語はもう懲り懲りである。しかも略語。
「……何なのよ、それ」
「うんざりしているところ悪いが、この件に関しては君の父親が深く関係しているんだ」
「ハイハイ、で? 何なのそれ?」
「Back Development System、直訳すると”発展支援機能”」
「また大層な名前。ネーミングセンスのカケラもうかがえないわね」
「俺が名付けたんじゃない」
「もっと詳しく聞かせてよ、その発展支援機能ってやつを」
望は咳ばらいを一回すると、淡々とした口調で話し始めた。
「インターネットは元来、アメリカ国防総省が軍事目的に開発したネットワークだ。それが、大学等のコンピュータ相互接続によって、今の形に成長したわけだ」
「そのインターネットとなんの関係があるのよ」
「まぁ焦るなって。インターネットは基本的に中心的組織を持たない。だから、発展・発達はユーザーや検索エンジンなどが事実上行っていると言っても過言ではない」
光が頭の中で理解が出来るギリギリの話である。
「そこで、ある組織が秘密裏に開発したのが、このBDSだ」