弘美にアパートからマンションに移るように仕向けろと言う。
マンションなら毎日家に行くと言えと。
一緒に住もうと言ってもいいと言う。顔合わすたびにしつこく言えと。
ようやく俺はみんなのやっていること、言っている意味がわかった。その反面、複雑な気持ちでもあった。
俺は店に連れてこれないし、金にもならないから客ではなく彼女のように付き合っていた。
真樹にも相談した。
俺達はホストになったのだから徹底してやらないとトップを目指せないだろうと言う。
そして俺は感情を押し殺すことにした。
弘美は先輩達の言葉に根負けしたわけではないが、しばらくして自分から転職をした。
きっと俺の言葉で気持ちが変わったのだろう。
「金を貯めれば自分の美容室をすぐに持てるよ」という言葉で。
弘美は夜、働きだして毎日仕事が終わると、夜中に店にくるようになった。
弘美の人生を変え、俺の売り上げは上がっていく。
俺はホストとして足を突っ込んだのだろうか?
しばらくしてアパートからマンションに引っ越した。
弘美の性格が変わってきた。女というものはお金をつかむと欲も強くなるか?
金銭感覚もおかしくなり贅沢で浪費家な女になっていく。
俺が他の女の相手をしていて忙しく、弘美の部屋に行くことができなかった。店にもあまり来ないので変だなと思っていたが、あまり気にも留めずにいた。
相手もしないで、ほったらかしにしている時期に他のホストクラブに出入りしていた。
弘美は、美容院を開く夢も忘れたように貯金もなく日銭をすべて使う毎日になっていた。
しばらくすると弘美は、「東京の生活に疲れたから田舎に帰る」と言い出した。
俺は、一応引き止める言葉をかけた。
弘美は「心にもないことを言わないで」と言う。
「俺に恨みもあるけど、人並み以上の生活や贅沢ができて感謝もしている」といって帰っていった。
他の女もいたせいか、弘美を失う悲しさはその時はなかったが、いなくなってしばらくすると
何故か胸にぽっかりと穴があいたような気持ちが湧いてきた。
こんな感情を持つ俺は、まだまだホストとして甘いのだろうか?
その後、過去を隠して幸せな結婚をしたと弘美の友達の早紀から聞いた。
真樹の客の早紀は説得も実らずそのまま安い賃金で美容師を続けている。
どちらが幸せなのかは、俺にはわからない。