…その結婚式場は、市街地からやや外れた所にあった。シンプルな作りだが、周囲の自然と調和して、一つの大きな公園になったような趣がある。
(雨がやめばなぁ)
式に出席するため、到着したケイト・ブロードは心の中で呟いた。
式場は、すでに軍関係者が多く集まっていた。
新郎が、宇宙艦隊の有望株である、ボルドー少将だからでもある。
建物に入ったケイトは、思いがけない人物に会った。
「…メアリ」
それは、アラン・シェリーの妹の名前だった。
「ケイトさん、いやブロード大尉。お久し振りです」
「名前でいいわ。今日は何で?」
メアリも軍勤務をしている。上官のアレンビー少将の付き添いできたのだという。
メアリは、少し話すと、迷ったように言葉を切り出した。
「…ケイトさん、兄のことはもういいのではないでしょうか」
ケイトの反応を気にしてるようだ。
「…もう大丈夫よ。心配しないで」
ケイトは笑顔で言った。メアリはそれを見て、ホッとした表情でその場を去った。
その後ろ姿が見えなくなって、ケイトは笑顔を消した。
(こだわってるのは、もう私だけなのかな)
…新婦控室のドアをノックすると、中からすぐに返事があった。
ケイトはややためいつつも、ドアを開けた。
「…ケイト!」
驚きの声を上げたのは、純白のドレスを着た、新婦だった。
それは、紛れもなく、あの戦いを共に切り抜けた、リン・ケリーだった。
「おめでとう、ケリー」
「ケイト…」
ケイトは思わず涙が流れた。
あの時、同じ候補生だった五人のうち、生きているのは自分達だけなのだ。
にもかかわらず、自分はつらい思いから逃げて、ケリーを避けていた。
どうして、もっと早く、向き合わなかったのだろう。
「馬鹿ね。今日は私の結婚式なのよ?もっと笑ってよ」
見れば、ケリーも泣いていた。彼女も、自分と同じ思いなのだろうか。
ケイトは、そう信じた。
「二人とも泣いてどうするのよ!ほらっ、外を見てよ」
居合わせたライス大尉が、カーテンを開けた。
雨は既に止んで、木々の間から光が差し込んでくる。
さらに、空には晴間が見えていた。
それはまるで、ケイトの心を映し出したようでもあった。
「何を持ってきたの?」
ライスはふと気付いて、尋ねた。
「私の得意なお菓子よ」
ケイトは、笑顔を浮べて、箱を開けた。
そこにあったのは…
完