俺たちの?

モラトリアム  2007-10-02投稿
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普通、入学式のプログラム内では、学長挨拶というのは初めのほうに行われるイベントであり、我が大学の入学式でもそれは同じことだった。学長は挨拶もそこそこ、舞台隅の席に戻り、式も中盤に差し掛かると、御役ごめんとばかりにコックリ、コックリと船をこぎだしていた。いくら役目が終わったとはいえ、舞台の隅に 座って居眠りでもしていれば、それなりに目立つ。口にこそ出さないが、講堂内のほとんどの人はそれに気づいていただろう。そして俺もその学長の居眠りに気づいた一人であり、退屈さもあいまってついつい口に出てしまった。今考えると、アイツとの出会いの引き金を引いたのは俺自身だったのかもしれない。
「学長寝てるよー。俺らの入学祝う気あんのかねぇ…」口からつい、ポロっと出てしまった。
出たといっても、ボソッと呟いた程度だ。聞こえても隣の席までだろう。そう、隣の席まで。アイツの席まで。
「あははっ!アンタ容赦ねーな!」隣のアイツは小さく笑った。
俺は独り言を聞かれた恥ずかしさもあり、「まーね。」と小さく笑った。
ちょうどその頃舞台では、眼鏡をかけた学年主任らしき人がオリエンテーションの説明をしていた。
「以上で、新入生オリエンテーションの説明を終わります。何か質問のある人はいませんか?」
この世の常として、質問コーナーというのは飾りだと相場が決まっている。加えて今回は入学式だ。
こんな大人数の前で堂々と質問できる奴がいるわけ…
「はいっっ!!」
伝説の始まりだった。
講堂内がシーンとなった。そういう意味では新入生全員が一つになったといっても過言ではない。
先生陣もまさかの挙手に一瞬動きが止まったが、ハッとしたようにその中の1人がマイクを持ってやってきた。
俺の隣に。そう、手を上げたのは紛れもなくアイツだった。
そして急にざわめく会場内。それもそうだ、入学式一発目から堂々と質問するなんて、なかなかの大物だ。
興味がわかないはずがない。今まさにアイツは、講堂内の中心だった。


「どうして学長は寝てるんですか?僕らの入学を祝う気はないんですか?」

…時間が止まった。



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