夕刻になり、校庭を帰り行く参加者達の姿を生徒会長室から見下ろしながら、
『全く当てにならない連中ですなあ』
霧島ユウタは皮肉を言った。
『あれで本当に、梅城会長に対抗するつもりがあるのかどうか―むしろ彼らこそ穏健派の名を汚す真の元凶かも知れませんよ』
差し込む夕日を浴びながら、九重モエはたしなめた。
『そんは風に言ってはなりません―我々はまだ、第三中学校と全面的に争う訳ではないのですから』
『ですが、その梅城会長は本当に外交や説得に応じてくれますかね?』
霧島ユウタの推理力は鋭かった。
『彼がもし、原理主義者ならば決して信条を曲げますまい』
確かに、梅城ケンヤは己の思想にどこまでも忠実だ。
一条フサエ達の殺害も、その延長線上の行為だと考えれば、合点がいく。
もし彼が現実主義者ならば、九重モエの介入の段階でなにがしかの妥協を図った筈だ。
その辺り、九重モエの聡明さをもってしても、まだ読み切れないでいたのだ。
『私も彼とは何回か接触しましたが―彼の真意がどこにあるのか、その全てを掴んでいないのは事実です』
反面、九重モエにはいくつかの点で、絶対的な確信を抱いていた。
『ですが、彼は戦略家であり、目的のためならばかなり巧妙な陰謀を巡らせる人物です―今、我々が対決路線を取れば、恐らく彼は容赦のない反撃の口実として、それを利用するでしょう』
そうだ。
梅城ケンヤは手段を選ばない―\r
『ですが、今の彼は一条フサエ事件で多少政治力を落としています。ゆくゆくは我々と対立するにしても、しばらくは動けません』
仮に偽りでも、こちらと融和しなければならない筈だ。
万が一、危険な原理主義者であったとしても、梅城ケンヤは馬鹿ではない。
権力を保ち・振るい・強化するためには一般生徒=有権者達の支持が必要な事くらい良く知っている。
『彼が外交手段を取ってくると?』
霧島は意外そうな顔を見せた。
何となくそれは、梅城ケンヤらしくなく思えた。
九重モエはそれに、やや皮肉気な笑顔で答えた。
『彼はテロリストじゃないわ?自殺した従姉妹の復讐だけなら一人でも出来る―公立校に入って生徒会長になるなんてむしろ遠回りよ?』