ヤス#166
【嵐の前】
街は急ピッチで復旧工事が進んでいた。テレビのニュースでは、福岡を集中的に襲った異常気象を、専門家達が苦し紛れの持論で唱えていた。死者は三百人を越え、尚、行方の分からない者は千人を超えると言う。未曽有の惨事となった。
ラブホテルで十一人の首が無い死体が発見された。
だが、そのニュースにマスコミは、執拗には食いつかなかった。
料亭・香月も営業出来るまでに改装工事が進んでいた。健さんが陣頭指揮を取っている。家を無くした山崎家は香月を手伝っていた。竹内親分は香月の世話になる必要などなかったが、そのまま療に居座っている。
ヤスは親分に呼ばれた。
「お呼びですか?」
「うむ…そこに座ってくれないか?」
「はい…」
親分はどこから持ちこんだのか、高級そうなソファに深々と座りタバコに火をつけた。妻の純子は床で正座している。
「ヤス…いや…ヤス殿と呼んだ方がよいかな」
ヤスは親分の妻、純子と通じた事を咎められるのかと思っていた。だが、ヤスは腹が座っている。何をいわれようと正直に話すつもりでいた。
「親分…実は……」