桃実はフラフラと冬の海に入って行く。
さざ波が桃実にぶつかる。ダメだと言ってるかのように桃実を陸に押し戻そうとしている。
でも桃実は──
「……黒……峯……好き…よ……愛して…る」
すでに下半身は海につかり、もう数歩で足がつかなくなる。
後、数歩。桃実の足が止まった──
「──……ヤ……セイ……」
フッと少し正気を取り戻したのか桃実は自分の手を見つめ、指に触れる。
「……夜……タス…ケ…聖夜」
別れ、再会。
暖かく優しい抱擁。懐かしい声。今も好きな心。
再び触れあえ、声を姿を、何も変わってない。
昔付き合っていた時と何も。桃実は心から黒峯を愛してた。
そして言われた言葉『さよなら』
また言われた残酷な言葉。
身を引き裂かれ、黒峯を殺そうとする程、愛していた。
後に残った傷跡。愛する者はイナイ。生きる……気なんかなかった──
聖夜がいなかったら──
「タス…ケテ……聖夜」
桃実が触れている自分の手には指輪が──
桃実は
その後海にのまれ
姿を消した──