林檎は驚いた。
この河原は人通りが少ない。だから見られてたなんて全く気付かなかった。
それでも平静を装って言った。
「過呼吸じゃ死ねないんだから、ほっといてくれたらよかったのに。余計なお世話よ!」
男は厳しい顔をして言った。
「こんな真夜中に、こんな人通りの少ない場所で気絶なんてしてみろ。襲われたって誰も助けてなんてくれないんだぞ!もっとよく考えろ。」
何も言えなかった。
事実この男を押し退けることが出来なかったのだから…。
私は浅はかだったとうつむいた。
男はそれを見て苦笑いをした。
「つらい事があったんだろ?だから過呼吸なんて起きたんだろ?
それなのに何にも知らないでキツく言って悪かった。」
男は優しく言いながら、林檎の頭をソッとなぜた。
林檎は優しくなぜてくれた男の手にホッとした。
『この人は私を心配してくれたんだ。』
そう思った瞬間…涙が頬を伝う。
初めてだったんだ人に優しくされたのも、心配してくれたのも…。
男は泣いてる林檎に困りながらも、頭をなぜ続けた。
なぜてくれるのが嬉しくて、気恥ずかしくて、泣きながら笑って男を見た。
男は一瞬ドキッとした。
「何笑ってるんだよ」と照れ笑いを浮かべた。
林檎は男の笑った顔に見とれそうになった。
林檎の頬を伝う涙を、男はもう片方の手でぬぐってやった。
林檎は男の手から伝わる温もりから、生まれて初めて心が満たされた気持ちになった。