銀河元号二0一年には、人類の総人口は推定四六0億にまで増えたが、その内太陽系連邦市民の数は四四七億人・GDP総合計の八六%・全知財の八一%と、今だ圧倒的な国力を誇りながらも、歴史上初めて、人類宇宙に置ける経済規模で九割を下回り、逆に太陽系外入植者の数は初めて一0億を突破した。
太陽系連邦による一極集中体制自体、次第に翳りが見え始めた。
だが、宇宙連盟体制には更に巨大で深刻な問題が振りかかり、容赦なく揺さぶりをかけていた。
一つは惑星可住化の停滞だ。
実を言えば、今まで成された系外惑星への移民は、多分に幸運の産物だったのだ。
この時代の技術では、大気を造成し、水源を確保し、それぞれ全く違う性質を見せる各恒星の過酷な変動に対処するには、莫大な努力と時間を必要とした。
ただでさえ、太陽系みたいに単体の、しかも安定した恒星に恵まれるのは難しく、仮に恵まれも、そこに地球型の惑星が生物の生存に適切な軌道を回っているケースは、更に希だった。
そして、惑星自体に十分な水源や地球型大気の原料がない場合、つまりゼロから可住化を始めねばならない場合―大きなアクシデントに見舞われなくても、三00年もかけなければまともな環境には出来なかったのだ。
しかも、そこに持って来たシアノバクテリア始めとした環境用生物達の突然変異・未知の悪性ウイルス化のリスクが常に付きまとう。
故に、惑星移民は遅々として進まず、同じ銀河元号三世紀中に新たに可住化されたのは、たったの二カ所・入植人口の増加率も年換算一%にも満たなかった。
入植後の困難やトラブルも後が絶えなかった。
特に、入植者の性別比が男性八八%・女性一二%と、世代交代を重ねて自立出来る社会を運営するには、明らかに偏りが大き過ぎた。
更に、銀河元号二三八年には、ショッキングなリポートが発表された。
当時の人類の平均寿命は既に百才を越えていたが、系外惑星入植者のそれは明らかに低く、地球時代末に等しい七二才に止まり、しかも健康寿命は五六才・出生後五年以内の乳幼児死亡率は千人当たり六六人と、当時の水準を大きく下回っている事が公にされたのだ。
劣悪かつ不安定な環境が原因だったのは言うまでもない。
当然、それは社会の不安定化・荒廃に繋がり、系外惑星での犯罪・自殺・薬物汚染等は信じ難い頻度となっていた。