『私の気持ちなんてわかるわけない!』
少女は玄関を飛び出した。
靴をつっかけ。
階段を走りおりた。
二番目に近い公園のブランコまで走った。
幼い頃は良く日が沈むまで母といた公園。
一番近い公園よりも
夕日に照らされた二人の長い陰をたくさん見ながら帰れるから
好きだった。
しばらくブランコを漕ぐと
その単調な動きにすぐ飽きてしまった。
ブランコをとめ、顔をあげ、気付いた。
『何かがない』
無かったのは
ブランコを勢い良く蹴りあげるとき足に触れそうになる木だった。
その木が生い茂っていたはずの場所には
はかない姿をした
切り株だけが残っていた
母親に
『見てみて。もうすぐでとどきそう』
とはしゃいでいた木は
不恰好に細い弦の巻き付いて
精気がないながらも
凛とした風貌と
しっかりとした根を地球にはっていた。
少女はまだ生きる木に
手を合わせ 頭をさげた。
つづく。