高級外来車のエンジンは元気一杯そのもので、アクセルを踏み込むと背中を伝わって、振動と凄まじい音が伝わってくるのがわかった。
光には今何処を走っているのか、さっぱりである。
ただ分かるのは海が見える事。
既に雨はやみ、夕日が大きく紅蓮に輝いていた。
今日は本当に迷惑な日だ。
デートと偽って光に近づいて来た美青年が、光を護衛するためにCIAから送られて来た諜報部員。
同じく諜報部員で、隣に座っている図体のやたらでかい、筋肉質の日本人男性。
そして、先程まで女々しくかわいらしかったこのお嬢様が、悪態をついて狭い車内の中で足組をしている。
車内は会話一つしなくなり、光のぶつぶつという独り言もエンジン音で掻き消される。
『……私は……家に帰れるのかな……』
光は頭の中でやたらと響くこの言葉が気に食わなかった。
『……何よ……いつも一人だったじゃない……何淋しがってんのよ……』
自分への励ましの言葉も絶大な影響を与えるでもなく、虚しく消えていった。
どのくらい走り続けたのかは分からないが、急に車が止まった。
無論、前に重心を置いたまま。
「ぃ〜……!! 危ないじゃないのよ!!」
「J、プランDだ」
「……了解」
二人が同時に頭を縦に振ったかと思うと、車は急発進した。
無論、後ろに重心を置いたまま。
今度は体勢が悪く、ドアポケットの突起に頭を強打。
「ぃ〜……もう! 良加減にしなさいよ!!」
先程の望への好意は何処へ行ってしまったのか、完全に憎しみへと変化していた。
光がどうにか起き上がると、目の前には信じがたい光景が広がっていた。
車が猛スピードで反対車線を突っ切っているのである。
トラックが真正面から向かってきた。
双方、クラクションを一生懸命に鳴らしている。
ただでさえうるさいというのに。
間一髪で、左へ曲がったのは赤いスポーツカー。
「ちょっと!! あんた正気!?」
しかし、不思議な位にガードレールや車にぶつからない。
しかも、望は片手で携帯電話を持っている。
「緊急事態発生!! 繰り返す! 緊急事態事態発生!!」