冷たい雨が俺の頬を打つ。
ついさっき感じた恐怖は、今も俺の心の中に残っている。
記憶を失う前の俺と、今の俺は別人だ。
俺が記憶を取り戻したら、そのとき俺は死んで記憶を無くす前の『俺』が出てくるのか? 俺はどうなるんだ。
耳に、濡れた路上を歩く音が聞こえた。
その音を出していたのは俺が愛する、彼女。
「はぁ、……探したんだよ? 早く戻ろうよ」
探したのは、俺じゃないでしょ。
記憶を無くす前の「木史葉 裕也」だろ。
「もう給食の時間だしさっ。早く――」
俺は、彼女の手を知らずのうちに振り払っていた。
「…………」
彼女は、振り払われた手を見て――愕然としていた。
俺は、この苦しみから逃れる方法を見つけたような気がした。
それは、死ねばいい。 彼女と。
彼女を、『俺』なんかに渡したくない。
はは、はははははははは――――
心の中で狂ったように笑う俺が居た。
その姿は自分でわかるほど、醜い。
こんな考えが思い浮かぶ自分が、哀しくなった。
雨とは違うものが、俺の頬から、彼女の頬から、溢れてる。