希望の道 二話

十円玉  2006-03-18投稿
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 冷たい雨が俺の頬を打つ。
 ついさっき感じた恐怖は、今も俺の心の中に残っている。
 記憶を失う前の俺と、今の俺は別人だ。
 俺が記憶を取り戻したら、そのとき俺は死んで記憶を無くす前の『俺』が出てくるのか? 俺はどうなるんだ。
 耳に、濡れた路上を歩く音が聞こえた。
 その音を出していたのは俺が愛する、彼女。
 「はぁ、……探したんだよ? 早く戻ろうよ」
 探したのは、俺じゃないでしょ。
 記憶を無くす前の「木史葉 裕也」だろ。
 「もう給食の時間だしさっ。早く――」
 俺は、彼女の手を知らずのうちに振り払っていた。
 「…………」
 彼女は、振り払われた手を見て――愕然としていた。
 俺は、この苦しみから逃れる方法を見つけたような気がした。
 それは、死ねばいい。 彼女と。
 彼女を、『俺』なんかに渡したくない。
 はは、はははははははは――――
 心の中で狂ったように笑う俺が居た。
  その姿は自分でわかるほど、醜い。

 
 こんな考えが思い浮かぶ自分が、哀しくなった。
 雨とは違うものが、俺の頬から、彼女の頬から、溢れてる。



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