フェーンまでは歩いて5時間以上かかる。
この島には車などの乗り物がない。そもそもそういう乗り物の存在すら知らない人々の移動手段はもっぱら足だけだ。
「リオン、フェーンには何しに行くんだ?」
「フェーンから食料の提供をしてもらうの、このままじゃマルーンの人達は飢え死にしちゃう。そのための交渉よ」
「そんな要求ちゃんと受け入れてくれるのか?フェーンからどんな仕打ちを受けてきたか分かってるだろ?」
「受け入れてくれるかは分かんない。でもみんなの命がかかってるから…」
「そんな大事な交渉何でお前に頼むんだ?族長が行けばいいだろ」
「おじいちゃんは無理だよ。もう歳だしこんな長時間歩けないって。だから孫の私が行くことになったの。お父さんとお母さんが生きてたらなぁ…こんな窮屈なことしなくて済んだのに」
リオンの両親は神への反逆者としてフェーンに殺された。
そのフェーンに食料提供の交渉しに行くのだ。
複雑な心境だろう。
だがリオンは前だけを見据えフェーンへと歩みを進めていた。
リオンは少々気の強いところがありそのため理屈っぽいネロとはよくケンカしていたが村人思いの優しい少女でもあった。
村人のため怒りを抑え交渉しに行くのを決意したのだろう。
「私じゃ頼りないけどさ、村で一番賢いあんたが来てくれるんだから大丈夫でしょ。『神の子』って言われてたくらいだしね」
ネロはかつてそう呼ばれていたことを自分でも忘れていた。
そのときのネロは自分自身も他人より自分は賢いと思いまわりの人間を見下していた。
だが歳を重ねいろいろな経験をしていくうちネロの性格は当時よりは丸くなった。