「泣きたかったら泣いてもいいよ」
彼は私の肩に手を乗せて、自分のほうへと引き寄せる。
ああ、君は優しい。
でもね、駄目だよ。
「大丈夫」
私は彼の手を振り払って、ピースした。
そんな心配そうな顔をしないでよ。
「本当に大丈夫だから」
今できる最高の笑顔で言った。
そして私は、彼がなにかを言いだす前に「じゃあ、また明日学校でね」と言い残して、走り去った。
きっと優しいあなたの事だから、まだ心配そうな顔をしているでしょう。
ごめんね。
涙を拭いながら走る私の隣をゴスロリの子が通った。その子も泣いていた気がした。
メールの着信音が鳴る。
無視して走った。
途中、小さな段差につまづいて転けた。
「…あは。……はは」
ハイヒールで全力疾走するのは無理があったかな。
ひねった足をさすりながら思った。
「大丈夫ですか?」
50歳くらいの男の人が声をかけてきた。
しっかりとスーツを着こなし、紳士といった感じだった。
「…あっはい。すいません」
なるべく泣いた顔を見られないように、俯いて返事をした。
「そうですか?でわ、これだけどうぞ」
そう言うと、私の右手にハンカチを握らせた。
強制的ではなかった。
ハンカチをくれると、男の人は歩いていった。
ハンカチは高級そうだったが、使いこまれた感じがした。
みっともなくハンカチを握りしめたまま泣いた。
今日ぐらいは泣いてもいいでしょう。
明日からは笑っているから。
君の隣に彼女がいても。