薫は病を発症した年の秋、尾瀬で知り合いになった二人の女性と美ヶ原高原に旅をした。その夜、薫は言った。『俺、今の仕事、年度末まで続けたいんだ。』洋子は言う。『どうして、そこまでするの。辞めちゃえばいいのに。』薫は続けて言う。『それが俺の責任だから…。負けたくないんだ』話はどう展開したかよく覚えてないが、洋子の仕事の話になった。『私の所、交通事故とか、自殺未遂の人がしょっちゅう運ばれて来るよ。骨がボキボキに折れて、内蔵破裂で…。自殺未遂の人を助けても言われるんだ、何で、私を殺してくれなかったの?って、だからね、私、思うんだ。その人には死にたいだけの思いがある訳でしょ?だから、死んじゃえば良かったって思う事があるよ。助けても、どうして殺してくれなかったんだって言われるし。』9年前に洋子の言葉に少し反発心を覚えたが今では、彼女の気持ちも分かる。旅の翌年、薫は1年間職場を休職することになった。(続く)