帰ってきたらいなかったんだ
君だけ専用の水槽のどこにもいなかったんだ
みんなのいる水槽にもいなかったんだ
いつも僕が帰ってきたら近くにきてぱくぱくしてたのにいなかったんだ
何にも入ってない水槽に水だけが入ってて
静かになっていて
一番色が薄くて大きくてかわいい金魚は
何日も餌をあげなくても元気なくせに
みんなと一緒にいると一番最初に全部餌を食べてしまって
みんなにあげようとしないし
仲良くできないんだ
僕がどんなつらいことがあった日でも
遊び惚けて何日も家空けても
僕が帰るのをいつまでも待っててくれたんだ
一人じゃ寂しいだろうなって考えた僕がバカだったんだ
ずっと君一人かわいがれば良かったんだ
仲間なんていらなかったんだよね
ごめんね
命を粗末にして僕は罪深い人間だよね
殺されても文句は言えないよね
君と過ごした一年は思い出がたくさんあって
一人暮らしをしてた時だって君がいたから寂しく無かったし
みんな君をかわいがってくれたんだ
明日から君がいない生活が待ってると思うとやりきれないよ
僕は君の埋められた公園に行って
滑り台に寝転んで
星を見たんだ
僕には見えたよ
月と木の枝の間の星が
何重にもなって流れたのが
確実に僕の大事なものは砂つかむみたいに零れてるんだ
僕の大好きなものは
どんどん零れてく
知っていたんだ
線と線が交わったところがたまたまの出会いで
すれ違ったり
波線でたまたまおなじところで何回も出会ったり
それだけなんだってことはわかっているんだけど
君と僕はそんな偶然だけじゃなくって
僕が君の線を無理矢理ひっぱって
消しゴムで薄く薄く消してしまったんだ
すごい濃くて
何度も消えそうになりながらも消えなかったのに
僕がとどめをさしたんだ
君の病気を知った時
冗談だと思ってたんだよ
塩浴させた塩がついてしまっただけだと思っていたんだ
こんな思い違い許されないなら
許してくれなくていい
僕は一生十字架を背負うんだ
命は全て尊く
ゴキブリや蟻も金魚も犬も人も変わらないんだ
僕はきっと終身刑だ