序章
1992年7月
雨が降りしきる夕闇、人気のない公園に血生臭い臭いが立ち込めていた。
水溜まりのできた土の上に一人の女性が、喉を掻き斬られた無惨な姿で横たわり、鮮血が水溜まりと溶け込むように同化していた。
傍らには、返り血を浴びながらも、殺人の快楽に酔いしれている少年が立っていた。
エクスタシー・・
そう呼べるのだろう、恍惚の表情を浮かべ、立ち尽くしたまま、この異様な空間を目撃した現実を生きる人々が、彼を取り押さえた時も、彼は異空間から帰っては来なかった。
この少年の犯した罪は社会を震撼させた。
それは、彼がまだ十二歳の小学生であった事と、殺人に対する欲望が性欲にも似たようなとめどもない欲求となって、今もなお、涌き出ていたからである。
家宅捜査で出てきた書籍などは、おおよそ、小学生がまず見る事のないような、殺人に関する物や各国軍隊の特殊部隊の詳細が書かれた物などが殆どだった。
日に日に増す人を殺す事への欲望を綴った日記と、次から次へと明るみになる殺人計画を仄めかすメモ類が公表されると、マスコミによって、彼の残忍な人格だけが怪物のように大きくなり、一人歩きを始めた。