Jは普通、ピントが合わないであろうその小型の望遠鏡を通して、約?km後ろの悲惨なバンの周辺を見つめていた。
「嘘だろ? あんな中をくぐり抜けられるわけがない。 第一、二台ともほぼ引っ付いて走ってたんだぞ」
望の言う通り、あの惨事から逃れる事は不可能と言っても過言ではないだろう。
しかしJの確認するかぎり、視界にはもう一台のバンが見て取れなかった。
「……危険は無くなったんでしょ?」
「……確認する」
腑に落ちない望は携帯を耳に当て、大きな声で通信を再開する。
「車両の内、一台を潰したがもう一台が見当たらないらしい。 至急、ヘリでの確認を要請する」
『……既にヘリコプターが事故現場に向かっています』
「衛星からの画像で確認は出来ないのか?」
『……それが、何らかの影響で衛星との通信が行えないのです』
望とその会話ををイヤホンで聞いていたJの眉間にシワがよったのを、光の目はのがさなかった。
「……どういうことだ?」
『……ただ今、総出で調査と復旧に当たっています。 ただ一つ言えることは、外部からの影響では無いということです』
「……そうか。 ……何か分かったら連絡してくれ」
『……例により、事故ということで証拠をとめておきます』
そのまま電話を切った。
まだ息の荒い光を乗せた車は屋根が戻され、元のペースで走り始めた。
「さっぱりだ。 訳がわからん」
望が愚痴をこぼす。
「とにかくプランDに変更だ。 目的地をアメリカに移す」
光は耳を疑った。
「ア、アメリカ!?」
「悪いが長旅になりそうだ」
自由の国、アメリカ。
光にとってそんな記述とは裏腹に、今の米国は荒れているという認識でしかなかった。
「……もう好きにして……疲れた……」
「襲撃が計画的なものだとしたら、目的地もばれている可能性があるかならな。本当にすまない」
そんな言葉も光にはただの”音”でしかない。
横では使い終わった銃を丁寧にしまっているJがいた。
「……武器がそんなに好きなのかしらね…」
超高速回転をしている車の大型エンジンと共に、光の声は夕日に沈んでいった。