case‐冴子
ニューヨーク・サウスブロンクスの一角
「俺がカルロスだ」
武装集団の奥からスペイン訛りのきつい米語が響いてきた。
あまたの銃口が、自らに向けられている事を意に介さぬ様子で立っているのは、東洋人の女である。
癖のある黒髪を無造作に束ね、SWATスーツを着用していたが、身に寸鉄も帯びていない。
「ニューヨーク土産にあんたの首、貰うわよ」
低めの、幾分ハスキーな声で女・木島冴子は宣言すると、シューティンググラスをむしり取った。
現れた瞳が、琥珀色に妖しく光っている。
「キメラだ……」
武装した男達の間に、低いどよめきが広がっていくさまが見て取れた。
「何? 女、名は?」
「ワイルドキャット(山猫)」
カルロスの背を、一瞬、戦慄が走り抜ける。
ファクトリーの残党……
「伝説のモンスターがお目見えとは、光栄だ。
では、お手並み拝見といくか」
カルロスが男達に、一斉射撃の合図を送る。
にわかにグォオオッと野獣の叫びが地を震わせ、殺戮の序曲の幕開けとなった。