三.
朝、ワイシャツとスラックス姿に着替えて、キッチンに入ると、中学生の息子の昇が先に朝食を済ませて新聞を広げていた。
「おはよう。」
先に声をかけたのは柳田の方だった。
「おはよう。」
新聞から目を離さず形ばかりの挨拶をする昇から新聞を取り上げて、一面記事に目をやると、昨日の銀座での喧騒の正体が大きな見出しとなって現れた。
“ホシノ会長射殺される”
ホシノ・・・ホシノ自動車、日本の自動車業界最大手であり、世界の自動車業界でも一.二を争う、巨大企業だ。
日本はおろか、世界経済にも多大な影響力を持つ会社の会長が射殺された。
日本経団連の次期会頭と目されている人物でもある。
“警察の調べによると、交差点に進入し、歩行の横断を待っている際に向かい側のビルよりライフルで狙撃された”と記事に書かれていた。
暗殺というヤツだ。
柳田は思った。
『この事件はうちにも捜査命令が来るぞ・・・。
産業スパイ?いや、新たなテロの始まりか?
誰だ、余計な仕事を増やしやがって!』
心の声はそのまま表情に出た。
「父さん、朝から何怖い顔してんだよ。」
すっとんきょうな息子の一言にカチンときた柳田は、無言でキッと昇を睨みつけた。