寝ぼけたような目…
ボサボサの頭…悪く言えば寝癖そのままの、よく言えば流行りの無造作ヘアか…?
中途半端な不精髭からはこの男のだらし無さを体言するものだった。
「今、面倒な案件抱えてましてね…。人手が足りないんですよ。申し訳ない。」
いかにも、面倒臭そうに欠伸を交えて男は言った。
仕事どころか、まともに生活しているのかさえ疑問な、いでたちで…
「あのぅ…僕、客じゃないんですけど…」
「あぁ?…あぁ、家賃の取立かなんかか?わりぃけど、今手持ちがねぇんで明日まで待ってくんねぇ?」
「家賃の取立でもありません!」
「んじゃ…水道代?それと…」
「ガス代でも電気代もありません!!」
言葉を遮る様に、らちがあかないとばかりに、一枚の紙切れを男の顔面に突き付ける。
「配属命令…?第三尉魔術士…?お前が…?」
一通り目を通すと、男の目付きが変わる…
先程まで早く寝かせろと言わんばかりに垂れ下がっていたのが、見る見るうちに吊り上がる。
「お前、コレ、本当か?」
マジマジと紙を指す。
「…嘘では無いと、思いますが?…」
「勘弁しろよ…新人のお守りかよ…」
面倒臭そうに、ため息をつく。
(勘弁しろ…は、こっちの台詞だよぉ…)
様々な偉業の声高い、憧れの場所「一陣の風」。
期待を膨らませ、やっとたどり着いた光景が、これだ…。
夢見る少年には、あまりにも厳し過ぎる現実…
「おいっ、お前。キッドって言ったか?」
「なんですか?」
ドヨン…とした空気をはらませながら、キッドは男を睨む。
「何だよ…仮にも俺は、お前の上司になるんだぜ?…その態度は宜しくないぜ…」
だらし無い男から、突いて出た、意外な正論。
確かに理想とは掛け離れた現実に、絶望感さえ漂ったが…
命令が下った以上、ここに配属されるのは、免れられない事実。
ならば、この最低の魔術士が当面の上司になる。
「…!失礼しました!何でありますか?…え…っと…」
「アルベルト。アルベルト=グランアーバイン第一佐魔術士だ。」
「えー、アルベルトさん。何でありますか?」
「…後ろの部屋にもう一人いるからよ、そいつに挨拶がてら仕事の話しでも聞いて来な。」
男が指差す先には、怪しげな扉がある。
部屋中をおおう煙草の煙は、その扉の奥から立ち上っていた…。