そこはまた別の、異様な部屋だった。
部屋中には、何に使うか分からないような実験道具が、ズラリと乱雑に並べられていた…
部屋の奥は、淡い緑の光りに包まれて、朧げに一人の影を写し出している。
「アルベルトか?…もう少し待ってくれないか?後少しで、作戦を立案出来るから…」
「あのぅ…」
振り向きもしないで人影が、
「!あぁっ!これは失礼しました。お客さんでしたか。依頼だったらこの部屋の前にいる者に…」
またか…と言わんばかりに割って入る。
「僕はキッド=アルフレアと申します。本日付けでここに配属になりました。宜しくお願いします。」
人影の動きがピクリと、止まる…
椅子に座ったままこちらを向き、
「君が今日から入る新人君か。初めまして、私はレイナード=ブリスケン第一佐魔術士です。宜しくお願いしますよ、キッド君。」
そのまま、右手を差し出してくる。
しかし、椅子から立ち上がる風ではなく、動こうとはしない。
部屋は縦長で、3メートル近くある。
仕方なく奥まで歩み寄り、右手を差し出す。
軽く握手を交わすと、
「今、手掛けている案件が厄介でね…作戦を練っている所なんだ。早速で悪いんだが、人手が足りなくてね…君の得意魔術等教えてくれないかな?君にも参加してもらいたいんだ。」
「よ、喜んで!」
表にいた男とは違う。
話のわかる人だ、この人は。と、キッドは思った。
着任早々の任務。
しかも、数々の功績を上げている、見た目はどうあれ、一流の魔術士達がてこずる様な事件に携われる…
「ここ最近、この辺り一帯を連続して爆破する事件が起きていてね…最初は、建造物等の器物損壊だったんだが、遂に死傷者が出始めてね。一度犯人を警察が追い詰めたらしいんだが…10名近い警察官が返り討ちに会い、犯人は逃走。それでうちに依頼が来た…と、言う訳だ。」
魔術士の仕事は、大きく言うと、常人にはおよそ解決不可能な事件の捜査・解決。
そのほとんどが警察からの依頼で、何らかの形で魔術が関与している場合が99%を占める。
つまりは、対魔術事件解決のスペシャリスト、と言うことになる。
今回の事件の魔術が関与していると推定された為、警察から依頼が来たのだ。
「おそらく爆破系の魔術を使う魔女が犯人だろうね…」
魔女というのは、魔術事件容疑者の呼称だ。