君の家の電話はまだ残っていた。いつものように留守電に繋がった。
「もしもし。〇〇です。〜」
久しぶりに聞いた君の声。君の声が出なくなってから初めて聞いた。あーそうそう、こんな声だったなぁ。
君の音声が終わっても、この電話を切る気がしない。もうちょっとだけ君が何か言ってくれそうな気がして受話器を手放せない…
「行かなきゃ。」
ふいに電話の向こうから聞こえた。僕は耳を澄ます。
「いつまでも失ったモノに縋ってちゃ駄目だよ。大切なものは忘れないんでしょ?だから…」
そこまでで雑音が入って何も聞こえなくなった。涙が止まらなかった。手術前に録音し直していたのだ。自分の先が長くない事を知って。いつか僕がまた電話する事を知って。
僕はもう君の声を聞かない。聞かなくても大丈夫だ。君が心の中で僕に語り掛ける気がするから。大切なものは忘れないから。
そう。きっと大丈夫。
終