「本当にもったいないよなぁ。
あんたこそ、うちのエースだったのにな。
冷戦末期の旧ソ連諜報員の日本での活動拠点の発見や、エルム聖道教が秘密裏にテログループ化していたのを最初に察知したのも、ヤツらが水道局を襲撃して赤痢菌を上水道にばら蒔こうとした計画を阻止したのもあんただもんな。
それが、あんな事件で金に目が眩んだばっかりにな。」
“もういい”
柳田が手を上げ、そんな素振りをした。
畠田は、素直に話を止め、会議室を暗く覆っているブラインドを上げて窓を開けた。
外の喧騒が聞こえてくると、柳田は畠田に背を向けて、会議室を出た。
柳田に与えられた任務は、“韓国大使館・領事館、及び関係部署のマークと、NIS(韓国国家情報院)工作員への諜報・工作活動の妨害”だった。
『俺は捨て犬か』
わかっていた事だったが、やりきれない虚しさが柳田を襲った。
柳田はやる気のない表情でデスクに戻り、これからの活動の計画を練る為と、彼が長年かけて各地に構築してきたコネクションに情報提供を依頼する為にパソコンを立ち上げた。
そこに一通のメールが飛び込んできた。
“アイアンが死んだ”
事態は大きく動き出していた。